敬語.jpを公開した
敬語翻訳を当初から予定していた「学べる敬語アプリ」にする為に、解説用のブログを立ち上げ、アプリ内でも読める様にした。
https://敬語.jp/なんだかんだ色々と諸々の事情があり、私が記事を書く事になった。
(本記事は2022年1月16日に「敬語.jp」を公開してから約一年間の振り返りです)
敬語の曖昧さ
敬語という物は事業を始めた当初の想定よりも曖昧で、同じ敬語でも人によって印象が大きく異なる。
「誤った敬語」だと聞く事の多い言い回しでも、明らかな言葉の乱れと見做す研究者もいれば、新しい敬語表現と捉えて研究している人もいる。
そういったあらゆる主張を勘案して書くと、長くてつまらない記事になってしまうし、結論もどっちつかずな物になる。
悩んだが、想定を「10代〜30代の人が、40代〜60代の目上の人に対して用いる場合」に絞った事で解決した。
敬語で困るのってこれくらい年齢に差のある時ですよね。
敬語を正しく学ぶ方法が(ほぼ)無いという現状
敬語事業を立ち上げた際に初めて知ったのだが、現在の日本において、いわゆる嘘マナーを避けつつ、敬語を手軽に学ぶ事は限りなく不可能に近い。
ちゃんとした敬語体系を学びたければ、言語学者の菊地康人氏の著書である「敬語」か「敬語再入門」のどちらかを読んでから、文化庁の「敬語の指針」を読めば良いのだが、就活生や新卒の人が勉強するには大変すぎる様に思う。
特に「敬語の指針」は多数の敬語研究者の方が携わっている為か、ところどころ説明に矛盾があり、判断が難しい。
また、Web検索で見つかる記事には「○○は二重敬語だから駄目」という説明を良く見かけるのだが、「お願い致します」や「頂戴いたします」の様な、実際は二重敬語ではない正しい敬語も多数含まれている。
そもそも、現代において二重敬語は不自然ではあるものの、それによって相手が憤慨する事はまず無いため、大して重要ではない。
むしろ相手に対して「拝見してください」と言う様な「尊大語」の方が遥かに怒られる危険性があるのだが、何故かこちらの解説は少ない。
他にも「して下さい」や「して頂く」と漢字混じりに書くのは、日本語として間違いだという嘘も頻繁に見かける。
この様に、閲覧数を稼ぐ為に誰かが無理矢理作った敬語のマナーの解説記事が沢山ある為、ネットの記事を読んで勉強しようとする真面目な人ほど、ネット上でしか普段見ないマナーを覚えてしまうという、非条理な状態となっている。
個人的に恐ろしく思うのが、こういった誰かが生み出した嘘のマナーが、いつしか本当のマナーになってしまうかもしれない事だ。
今の所「そんなマナーはどうでも良い」と考えている人の方が多いので問題ないのだが、十年、二十年と経つにつれ常識となってしまい、ただでさえややこしい敬語がますます面倒になってしまう可能性がある。
なので、敬語.jpはそういった嘘の敬語マナーを指摘しつつ、「敬語の指針」や菊地氏の著書を基に、昔からあり、現代でも有効な敬語体系を手軽に学べるブログを目指している。
苦労した記事、お気に入りの記事
最も苦労したのは「させていただく」の記事で、四ヶ月ほど何度も書き直しをした。
これは文化庁の定義では昔からの用法にある「許可を得ている」という条件を重視しているものの、現代ではその条件を知らない人の方が多い為だ。
かくいう私も敬語事業を始めるまでは知らなかった。
日常的に見聞きする言葉が、実は正しい使い方ではないと説明するのは難しいし、使わない方が良い理由を説明するのはもっと難しい。
まだまだ読みづらいと思うので、今後も推敲していきたい。
最も気に入っている記事は「宜しくお願い致します」だ。
「『宜しくお願い致します』という書き方は誤りなので相手に失礼だ」という嘘のマナーがある。Web検索をしてみると2017年に書かれた記事が多いので、この頃に流行りだしたマナーらしい。
Googleで期間を絞って検索してみた所、「宜しくお願い致します」が誤りだという記事は2016年1月、「お願い致します」が誤りだという記事は2015年1月の物が最古だった。
(厳密には「お願い致します」が誤りという解説は2014年9月の記事が最古だが、こちらは公用文に限定した内容なので除外)
青空文庫内の小説を軽く調べるだけでも、何十年も前から良く用いられている書き方だと分かる。なので誰かが捏造したマナーである事は一目瞭然なのだが、私も一時期まんまと引っかかっていた。
この記事を書く前にWeb検索を用いて「宜しくお願い致します」「宜しくお願い致します 失礼」「宜しくお願い致します 正しい」などで百件以上の記事を調べてみたが、
一件も「『宜しくお願い致します』は正しい書き方であり、相手に失礼ではない」と説明している物は見つからなかった。
なので、ひょっとしたら当記事が日本初なのかもしれない。
そうでなくても周知に貢献しているだろうから、今後「失礼だと思っていた『宜しくお願い致します』が、実は正しい書き方だった」という話を聞く様になったら嬉しい。