VR Tech Tokyo #7 に行った
HTC VIVE と Oculus Rift が一般販売されて一年と少しが過ぎた。
私もVRにいち早く参入する為に、発売と同時に二台とも注文したものの、忙しさで開発する時間がなく、今ではたまに遊ぶおもちゃと化している…。
このままではいかんと思い、今のVR業界の現状を知る為にも VR Tech Tokyo #7 へ参加して来た。
(#8 から xR Tech Tokyo と名称が変わっている)
VR体験会
当日は12のVRソフトが出展されていた。
その内の3つソフトに関して詳しく話を聞く事が出来たのでご紹介する。
風となって世界を駆け巡るオープンワールドVRゲーム「WINDIAN」
開発:EXPVR.さん (http://expvr.jp)
HTC VIVE はルームスケールVRと言って、2〜5m程の限られた空間を自由に移動出来るVRだ。
それだと広い仮想空間を移動するには狭過ぎるので、現在主流となっているのが、コントローラを移動したい所へ向け、ボタンを押す事で仮想空間内を一瞬で移動出来る「ワープ方式」だ。
それに対し、「WINDIAN」は「腕を振る事で前に進む」という新しい移動方式を搭載したゲームだ。
HTC VIVE のコントローラにあるトリガーボタンを押しながら腕を後ろに引くと前に進む。
コントローラは二本あるので、まるで走る時の様に手を交互に振る事で、どんどん前へ進む事が出来るという訳だ。
実際に触ってみた感じでは、走っているというより、ボートを漕いでいる感覚に近い。
ただ、一瞬で移動できる反面味気なさを感じる「ワープ方式」と比べ、仮想世界を自分の意思で移動している感覚が強く感じられた。
また、コントローラのボタンを押しながら下に振るとジャンプをする事が出来る。
翼を羽ばたかせる様なイメージに近いが、まるでVR空間を飛んでいるかの様な楽しさで、こちらも新鮮だった。
このコンテンツを作られた EXPVR.さんはこの移動方式を、ワープ方式と取って代わるものとしてVR業界の主流としたいそうだ。
なりきりVRコント
開発:なっつーさん (@yashinut)
なりきりVRコントは一人がVR上でコントをし、インターネット経由で観客側が自由に見る事が出来るというアプリだ。
Oculus Rift や HTC VIVE は10万円程する為、一部のゲーム好きが買うだけで、一般的に広く流通しないという問題点がある。
なりきりVRコントは観客側はAndroidスマートフォン、コントをする側は Oculus Rift に分ける事で、その問題点を解決したアプリだ。
見る側は広く普及しているAndroidで見る事が出来、コントをする側はVRで、まるで目の前に観客がいる様な臨場感でコントをする。
今回はそのコント機能がまだ開発途中だった言う事で、人(コントをする側。動画右)とドラゴン(観客。動画左)に分かれてコミュニケーションが取れるデモとなっていた。
VRファイルマネージャー
開発:ゆーとさん (@yutoVR)
現在、PCのデスクトップ画面をVR空間に浮かべるアプリとして Virtual Desktop がある。
人気の高いアプリだが、Oculus Rift や HTC VIVE は解像度がそこまで高くはないので、実作業をするには文字が潰れてしまい読めず、もっぱら動画視聴用として使われている。
VRファイルマネージャーは、デスクトップをそのままVR上に表示する Virtual Desktop とは違い、テキストファイルや画像・動画単位でコンテンツをVR上に表示させる事で、実作業に耐える機能性を目指したアプリだ。
通常のデスクトップ画面は二次元上にウィンドウを配置させる形だが、それを三次元に拡張出来る訳だ。
使うウィンドウを手元に、使わないものは遠くへ移動させたり、頭上や真下にもウィンドウを配置する事が出来る。
デモでは画像や動画、テキストファイルの表示と操作までが出来る状態となっていたが、完成すれば従来のPC作業の概念を覆す、非常に便利なアプリになりそうだ。
トークセッション
VRアトラクション GoldRush VR 制作がさすがにラッシュすぎた話
GoldRush VR とはハシラスさんがSXSW Conferenceでの展示の為に開発したVRゲームだ。
最大の特徴はトロッコ装置を用いた臨場感あふれるプレイ体験と、最大4人同時で同じVR空間を共有しながら遊べるという点。
今回のセッションではその開発の裏側をお話しいただいた。
最も驚いた点は開発期間。何と1.5ヶ月という超短期開発だ。
3日間の展示の為だけに開発したという経緯があり、細かいブラッシュアップの必要性が無かった事が大きいらしいが、それでも非常に短い。
今回のセッションのスピーカーのchiepommeさんによると、いくつかの成功要因があったという。
長くなる為割愛するが、最も重要だった事は「ディレクターがネットワークゲームに精通していた」という点だという。
というのも、ネットワーク同期が必須であった為だ。4人が同じスペースで遊ぶと聞くと、ネットワーク通信を行う必要がなさそうに思える。
しかし、実際は1つの HTC VIVE につき1つのPCが必要であった為、空間を共有する為には4台のPCでオンラインゲームの様にリアルタイムな同期を行う必要があった。
ネットワーク通信を用いたゲームは、通信遅延による同期ずれが生じるので、普通のゲームを作る感覚で企画を練ってしまうと、その同期ずれ問題に気付くのに遅れてしまう。
今回はディレクターがその点を熟知していた為に回避する事が出来た。
セッションのメインテーマ以外で個人的に参考になった点は、「ただ4人が同じVR空間で球を投げ合えるだけで楽しんでくれる」という所だった。
GoldRush VR は4人で力を合わせてミッションをクリアしていくゲームだが、みんな球を投げ合うだけで楽しんでしまうので、先に進んでもらえる為のUX設計に苦労したという。
ガンナーオブドラグーンの世界 〜 Unityで作る非VR Readyでも動く優美な空
ガンナーオブドラグーンは野生の男さんの、個人開発にも拘らず非常に高いクオリティをほこる為、日本のVR業界では有名なゲームだ。
グラフィックもさる事ながら、ゲームに合わせて動くロデオマシンや、風を感じるファンがある為、本当にドラゴンに乗っているかの様な臨場感を体験する事が出来る。
今回のセッションでは開発のグラフィックス面に関する専門的な話を聞かせていただいた。
上記の動画でもその美麗さが分かると思うが、何と非 VR Ready (本来ならVRが動かないくらいの性能) のPCで動作するのだと言う。
基本的にはドローコールを減らすかがキモになる様で、
- 地面をモデリングではなくシェーダ (Horizon[ON]) で表現
- 標準シェーダの活用 (物理ベースレンダリング)
- Post Processing Stack を活用
- 空は天球にテクスチャを貼る形で表現 (++skies.)
と言った工夫をされていた。
とはいえ、全体としては一つ一つの機能の活用というより、細かい微調整によるタマモノだと思われた。
セッション後半は Post Processing によるエフェクトの具体的な利用について説明されていたが、Unity の底力を感じさせる内容となっていた。
太陽の方向を向くと視界全体が明るくなり眩しさを表現出来るグロー処理、地面に霧や川などをワンクリックで発生させるエフェクトも驚きだった。
建築分野災害シミュレータ研究開発事例
ポケット・クエリーズさんと竹中工務店さんが共同で行っているVR研究開発の内容について発表していただいた。
ポケット・クエリーズさんはVR・リアルタイムCGレンダリングを用いた様々な分野での開発を行なっており、今回の発表のメインとなるのは竹中工務店さんとの共同で行っている災害シミュレーションシステムだ。
以前から二社は建物に対する津波による水害や煙の動きをリアルタイムCGレンダリングでシミュレーションしたり、その際の人の避難行動の動きを研究したりしていた。
そして、それをVRでよりリアルに体験出来るのが、総合VRシステム「maXim」だ。
俯瞰で津波の様子や煙の動きを見るよりも、VRで実際の避難者の視点で見る事が出来た方が臨場感があり、実際の災害の過酷さをより肌で感じられるという。
今回は映像のみでの紹介となっていたが、科学的にシミュレーションされた水害と火災、煙による視界の制限がある中、避難する人の様子はリアリティがあり、是非VRで体験してみたいと思った。
STYLY Suite
STYLY Suite は Psychic VR Lab さんが現在開発中の、デザイナー向けのVRショーケースアプリだ。
VR空間でデザイナー自身が作り出した作品を実際のショーケースの様に見る事が出来る。
VRショーケースアプリを作るにあたり、デザイナーの方々にヒアリングした所、次の様な要望が上がったという。
- Maya, CAD のデータを扱いたい。
- エフェクトもかけたい
- アニメーションも使いたい
- 配信もしたい
- Instagram も連携したい
- インタラクティブ要素も入れたい
- Mac で使いたい
これらの数々の要望を「ブラウザ上で作成し、作った物はそのままWebVRとして見れる」という形で全て実現した。
複雑なコーディングは不要で、作品データ (Maya, CAD, Tilt Brush) をアップロードして配置していくだけで、インタラクティブなショーケースVRを構築出来てしまう。
現在クローズドβ (http://suite.styly.cc) との事なので、気になる方は是非参加してみてはいかがだろうか。
Re: VRから始める異世界生活
VR IMAGINATORSとして活動しているはるねずみさんに、VR空間におけるアバター操作の開発手法についてお話しいただいた。
ソードアートオンラインの登場により仮想世界でのVRMMOを夢見ているというはるねずみさんは、VR空間にアバターとして入り込めるシステムを開発中だという。
HTC VIVE は標準では二本のコントローラしかついておらず、VR空間で自由に動くには足の動きをトラッキング出来ない。
だが、FINAL-1Kというアセットを用いれば、ある程度は腕や頭の位置から足の状態を推測し、VR上に反映させる事が出来る (設定は非常に大変らしいが)。
また、VRトラッカーという追加のトラッキング装置を足に装着すれば、かなり細かいレベルでのトラッキングも可能になるという。
VR体験会では人が多すぎて体験出来なかったが、現在開発中の中二病VRオンラインのデモも展示されていた。
VRMMOの時代早く来て欲しいですね。
VRゲームを出してわかった国内外ユーザーの反応の違い
発表スライド (SlideShare)同人サークル「VRZ_Project」にて開発したZombie・Hazardを Oculus Store でリリースした際の国内外の反応について荻野雄季さんからお話しいただいた。
VRZ_Projectでは、「とりあえず何かVRゲームを作ってストアに出す」を目標に掲げ、無事 Zombie・Hazard を Oculus Store にリリースする事が出来た。
必要最低限の実装だけをしてリリースをした為、あまり国外ユーザからの反応は良くなかったそうだが、そのウィットに富んだレビューを面白おかしく紹介していただいた。
全体的に「癒し枠」の発表という事で冗談めいた風な内容だったが、実際にストアに出され、それがどれくらいダウンロードされ、プレイされたかという情報はとても貴重だ。
また、国外のユーザは積極的にMODとして色々と手を加えようとするという点も勉強になった。
詳しくは上記リンクのスライドにて。何度も言うが、ビジネスに絡む事も多い為、ストアでの実際の反応を直接開発者から教えてもらえる事はとても貴重だ。
NVIDIA VRWorks Audio
最後のセッションでは、NVIDIAさんより、VRWorks Audioのついてご説明いただいた。
VRWorks Audio はレイトレーシングオーディオを用いた立体音響を実現するライブラリだ。
3D空間のモデル情報を基に、音の発生源からどの様に音が反射し、ユーザの耳に届くかを計算してくれる。
これを用いると非常にリアルな音響効果を実現出来る。
これに関しては言葉では伝わらないと思うので、以下のデモを (出来ればヘッドホンで) 聞いて欲しい。
現在 Unreal Engine 4 用のプラグインと、C++での直接開発用のライブラリの形で提供されている。
おわりに
全体のセッションと試遊体験を通じて感じた事をまとめておく。
Unity のシェアが圧倒的
一般的に、3DCGゲームの開発で用いられるゲームエンジンは Unity と Unreal Engine 4 (以下UE4) が多い。
VR開発でも同様かと思われていたが、今回のイベントで話を聞けた全ての開発者は Unity を使っていた。
何故だろうか。UE4 も Unity と同レベルのコンテンツを簡単に作れるゲームエンジンではある。
ヒントとなりそうな点として、今回お話を聞けた人はソーシャルゲーム業界に携わっているか、過去に関わっていた人が多かった事が挙げられた。
スマホのソーシャルゲーム開発では Unity が主流となっている為、そのまま日本の VR 開発も Unity が中心となっていったのだろうか。
参考となるデータが今回のイベントだけとは言え、日本のVR業界で開発に関わるには Unity が使える事が必須だと肌で感じた。
アイデアがどんどん形になって来ている
VRを体験し、コンテンツを考えた事がある人は、一度は次の様なアイデアを思いつかなかっただろうか。
- PC内のコンテンツをVR空間の上に浮かべる
- VR空間にツイートが浮かび上がるTwitterクライアント
- 腕を振ると前に進むVR空間の移動方式
- VR上でのアバターを用いたコミュニケーション
今回のイベントではこれらが全て、実体験出来るレベルまで形となっていた。
あと半年〜1年もすればストアなどを通じて、VRデバイスを持っている人なら誰でも使える様になっているのでは無いかと思う。
アイデアがどんどん実現して来ている。数ヶ月後、数年後のVR業界が楽しみであるとともに、まだ参入出来てない事への危機感を覚えるイベントだった。